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弁護士リレーブログ

カルテの証拠保全手続について

2022.07.30

医療過誤が疑われる場合、その調査をするには、まずはカルテなどの診療記録を入手する必要があります。前回のリレーブログでは、カルテ開示の注意点について説明しました。今回は、証拠保全手続によるカルテの取得方法について概説します。

 

カルテなどの診療記録を入手する方法としては、近年の個人情報保護法等の整備に伴い、患者から医療機関に請求して開示を受ける場合が増えていますが、このような開示方法には、 診療記録の全てが確実に開示されるとは限らないこと、医療機関に対し時間的余裕を与えることになり、その間にカルテが改ざん・隠匿されるおそれがあることなどの問題点があります。

そこで、これらの問題を回避するために、裁判所による証拠保全手続を利用することが考えられます。

 

証拠保全とは、証拠調べが必要とされる証拠方法について、訴訟における証拠調べを待っていたのでは、これを利用することが困難となる事情があるときに、あらかじめ証拠調べをすることによって、その結果を保全する手続です(民事訴訟法234条)。

カルテなどの診療記録に対する証拠保全手続は、患者側が申立書類を作成し、これを裁判所に提出して、裁判所の証拠保全決定を得て、裁判所がカルテなどの診療記録を検証する一連の手続です。

 

患者側の申立に対し、裁判所が証拠保全の必要があると判断して証拠保全決定がなされると、実施日に裁判官と書記官、患者側代理人弁護士が病院に出向きます。改ざんや隠匿の時間的余裕を与えないため、病院には、実施の1時間ほど前に証拠保全の実施が告げられます。

開始時間になると、裁判官らが病院内に立ち入り、病院側に対し、カルテ等の提示を求め、検証を開始します。検証とは、裁判官が五感の作用によって対象物の性状等を検査し、その認識を証拠資料とすることをいい、裁判官が現場でカルテなどの診療記録の原本を確認したうえ、複写機による複写や写真撮影等の方法により記録化します。その際、紙面の上から紙が貼られていたり、修正液の跡や欠落があるなどの状況が認められると、それも記録されます。

近年増えている電子カルテについては、記録化するにあたり、プリントアウトをする必要がありますが、その際、ディスプレイ上の表示とプリントアウトしたものとの間に齟齬がないか確認する必要があります。齟齬がある場合にはディスプレイ上の表示を別途写真撮影するなどの対応が必要となります。また、電子カルテのシステムの種類によって、改ざんをチェックするための書換・更新履歴の表示方法が異なりますので、当該病院に導入されているシステムのベンダー企業名と当該システムの表示方法を事前に確認しておくとよいでしょう。

 

なお、このような証拠保全手続は、医療機関による開示の場合と比較して、弁護士費用、コピー代、カメラマンを同行する場合にはその費用など費用負担が大きいこと、裁判所の証拠保全決定を得るために病院側の過失の内容や改ざんのおそれがある程度推認できることが必要となりますので、事案によっては証拠保全手続に適さない場合もあります。

 

カルテ等の診療記録は、医療過誤事件において最も重要な証拠であり、どのような取得方法を選択するかについては慎重な判断が必要となりますので、まずは弁護士に相談されることをお勧めします。

 

会員弁護士 S.D

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