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弁護士リレーブログ

がんの見落とし事案における因果関係の立証について

2021.03.31

2021年1月より,このブログでは,2020年12月に開催された「全国交流集会in愛知」において,大阪医療問題研究会の研究グループが発表した研究内容を紹介していくことになっています。

 

今回は,その第3回となります。

 

がんの見落としの事案の「因果関係」の立証について,最高裁の判決を示しながら説明したいと思います。

(※ なお,ここでいう「因果関係」とは,行為と結果との間の一般的な意味での「原因結果関係」,すなわち「あれなければこれなし」の関係をいいます。)

 

「因果関係」の立証は,「一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」とされています(最判昭50年10月24日,民集29巻9号1417頁,ルンバール事件最高裁判決)。

 

ここでいう「高度の蓋然性」とは,平たく言えば,10中8,9割で確かと考えられる程度,とされています。

 

作為の場合,「因果関係」の立証は,比較的容易です。

(例「手術で血管を損傷して死亡した。」→「血管を損傷することがなければ死亡しなかった。」)

 

これに対して,がんの見落としによる死亡の事案のように不作為の場合には,「因果関係」の立証は,途端に複雑なものになります。

 

なぜなら,現実にはがんを見落としているのに,見落としがなかった(=がんを発見することができた)場面を仮定した上で,

① いつの時点で,どのようながんを発見することができたのか,

② どのような治療法が選択できたといえるのか,

③ その治療法によって,実際の死亡時点でも生存していたのか,

④ 具体的にいつまで生存できたといえるのか,

等を検討し,これを現実の経過と比較することが必要となるからです。

 

患者さんやご家族の方は,医学の詳しい知識を有しておらず,患者さんの健康状態がどのように把握され,どのような治療が選択されていたか,詳しいことは何も分かりません。そこから,カルテ等の医療記録の開示を受けて,専門用語の意味を理解し,上記①から④を立証していくなど事実上不可能です。

 

このような不都合を避けるために,患者側の立証のハードルを下げることはできないものでしょうか?

 

この問題に対し,最判平成11年2月25日(民集53巻2号235頁)は,次のとおり判示しました。

「医師の右不作為が患者の当該時点における死亡を招来したこと,換言すると,医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば,医師の右不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定されるものと解すべきである。」

「患者が右時点の後いかほどの期間生存し得たかは,主に得べかりし利益その他の損害の額の算定に当たって考慮されるべき由であり,前記因果関係の存否に関する判断を直ちに左右するものではない。」

 

この最高裁の判決は,「因果関係」の立証にあたり,患者さんがお亡くなりになった時点よりも長く生きられたと証明できれば十分であり,どれぐらいの期間を生きることができたかまでの立証は不要である,つまり上記①から④をすべて立証する必要はなく,①から③を立証すれば足りるとして,立証のハードルを下げたものと評価されています。

 

しかし,立証のハードルが下げられたとしても,上記①から③,すなわち,いつの時点でどのようながんを発見することができたのか,どのような治療法が選択できたのか,その治療法の効果はどのようなもので,実際の死亡時でも生存していたといえるか等について,「高度の蓋然性」レベルでの立証が必要であることには,何ら変わりありません。

 

このような立証は容易ではなく,がんの種類,治療法等の専門的な知見のみならず,5年生存率を含む統計資料の知識が必要となります。

 

当研究会は,これらの専門的な知見及び統計資料の知識が共有されています。

がんの見落としに関するご相談などございましたら,お気軽に当研究会あてにご相談ください。

 

会員弁護士 Y.M

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