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弁護士リレーブログ

医療事故と過失の特定

2020.09.30

1   医療ミス(過失)が起こって患者が損害を被った場合に,訴訟上,患者側が医療機関側の責任を追求するために明らかにしなければならないことが3つあります。「過失」と「損害」と両者の間の「因果関係」を明らかにして,それを立証しなければなりません。先ず分かりやすい「損害」から説明します。

患者側の「損害」とは,医療ミスがなければ患者側が被らなかった損害のことで,交通事故による損害と大きく異なるものではありません。ただ医療の場合は,患者は何らかの疾患を抱えて医療機関を受診していますから,当初から患者が抱えていたその疾患による障害などはこの「損害」に入りません。また医療の本質は,基本的に医療機関の説明を受けて患者側が選択し自己決定すべきものですから,きちんとした説明がなされなかったため患者側の自己決定権が侵害された場合の慰謝料などは,交通事故にはない,医療ミス特有の「損害」といえます。

 

2    次に問題となるのは「過失」です。しかし,この「過失」の内容を明らかにするには,先に過失と損害との間の「因果関係」を明らかにした方が分かりやすいので,「因果関係」について説明します。そもそもここでいう「因果関係」とは,「過失」と「損害」との間に,「過失」を原因として「損害」が生じたという関係があることを意味します。自然科学上の「因果関係」では,その原因によってその結果が起こったということに,わずかでも疑問があれば,「因果関係」は認められません。しかし,民事訴訟においては,そこまで厳密には考えられていません。常識的に言えば,その「過失」によってその「損害」が起こったことが,十中八九間違いないと言える関係(難しい言葉では,「相当因果関係」あるいは「高度の蓋然性がある関係」といいます)があるなら,両者の因果関係は認められます。

 

3     それでは「過失」とはどのようなものでしょうか。一般的には「過失」とは,やるべきことをやらなかったこと,あるいはやるべきではないことをやってしまったということを意味します。しかし,民事訴訟においては,「過失」と「損害」との間には,上記の「相当因果関係」が必要ですから,およそ問題となる「損害」を生じさせないような「過失」は,ここで問題とする「過失」には該当しません。最初に挙げた「損害」内容を発生させ得る「過失」でなければなりません。例えば,帝王切開で胎児を娩出するのが遅すぎて,その後に胎児が脳性麻痺になった事案では,出生した新生児をベッドから落したという過失は,通常はここでの「過失」になりません。

それでは,「過失」は,一つの行為あるいは一つの不作為に限られるのでしょうか。新生児のGBS感染症の治療が遅れて,救急病院に転送したけれど脳性麻痺になったという事案を下に考えてみます。この場合に,その医療機関が,GBS感染症の治療薬を保有しているのに,この治療薬を適切な時期に投与しなかったというのであれば,その不作為が「過失」になりそうです。GBS感染症の治療には良く効く治療薬があります。しかし,この治療薬を投与すべきだと言うためには,問題の新生児がGBS感染症あるいは少なくとも何らかの感染症に罹患していることをその医療機関が知り得た場合でなければなりません。なぜなら,その新生児が感染症に罹患しているとはおよそ考えられない場合にまで,治療薬を投与せよとは要求できないからです。これは民法が過失責任主義を取っており,医療機関に落ち度がなければ,責任を問えないとしているからです。そうであれば,「治療薬を適切な時期に投与しなかった」ということだけでは,ここでの「過失」に該当しないということになります。

とはいえ,新生児がGBS感染症にかかっていたのなら,何らかの異常な徴候がそれまでに出ていたはずです。その新生児が出生後に急にミルクを飲まなくなり,前日には既に何となく元気がなく,何か苦しそうな呼吸状態であったとすると,これらの徴候は,医学的に新生児が何らかの感染症にかかっていたことを疑わせる事実です。そうであれば,新生児がこのような状態になった前日には血液検査をして,感染症にかかっていないかどうかの確認をすることをその医療機関に求めることは,無理を強いることにはなりません。そうしないと治療が遅れてしまうからです。新生児の治療は一刻を争います。但し,緊急の血液検査をしても,検査結果は翌日にならないと分からず,翌日に分かったところで,その頃には,その新生児は既に救急病院に転送されていたであろうということになれば話は別です。この場合には,そもそも最初の医療機関には治療薬を投与する機会がなかったことになりますから。あくまで,血液検査の結果を見て治療薬を投与する時間的余裕がなければなりません。そうであれば,前日に血液検査をしておれば,転送時までに治療薬を投与する時間的余裕があったということであれば,責任が問えそうです。ところが,前日に血液検査を実施していても,検査結果で必ず異常値が出たかどうかは分かりません。もし転送先の救急病院での血液検査値から逆算すれば,前日に血液検査しておれば異常値が出たはずだということが言えれば,医療機関の責任が問えることになります。そうであれば,「前日に血液検査を実施しなかった」という過失と,「治療薬を転送時までに投与しなかった」という2つの一連の過失によって,新生児のGBS感染症の治療が遅れて,脳性麻痺になったと言えることになります(ふーっ)。とはいえ,前日までに異常徴候があった,それを見て血液検査をしておれば検査値が異常値を示した,さらにはその検査結果が出ておれば転送時までに治療薬を投与できたという3つの条件の一つでも満たされなければ,上記の複合的な「過失」は認められません。

 

4   このように医療事故による「過失」は,検査,診断,治療という過程を踏まえて複合的なものが少なくなく,「過失」の特定は,決して容易なものではありません。また上記の例でもお分かりのように,医学的専門知識もなしに「過失」を特定できるものでもありません。ですから,医療事故の訴訟は決して簡単なものではないことを是非ご理解いただきたいと思います。

 

会員弁護士 Y.A

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