裁判官と医療機関とのかかわり
2022.12.28
裁判官は、裁判所にいて裁判をしている。裁判所の外に出ることはない。裁判所あるいは裁判官に対してそのようなイメージを持たれる方は多いかもしれません。
しかし、裁判官にも様々な仕事があり、本当に「裁判」だけをしているわけではありません。
たとえば、大阪では、医療過誤訴訟の鑑定人を医師に引き受けてもらうために大阪高裁ネットワークというものがあります。大阪高裁ネットワークは、大阪高裁管内にある大学病院と連携して、医療過誤訴訟において裁判所が鑑定を実施することになった場合に、連携を得ている大学病院から鑑定人候補者を推薦してもらい、その中から鑑定人を選任して鑑定を嘱託する、ということが行われています。このネットワークが適切に機能するために、担当する裁判官が決められており、担当裁判官は定期的に大学病院に赴いたり、会議を行ったりしています。
それとは別に大阪地裁ネットワークというものもあります。こちらは医療過誤訴訟に限りませんが、医学的な知見が必要となる争点に関して協力を得るために病院とのネットワークを構築しているものです。
このように、裁判官は、弁護士や世間の目からはあまり見えないところで、病院や医師らとかかわりをもつ機会があることがわかります。
これは、患者側代理人にとってみれば注意するべき点でもあります。裁判官は、医師・病院側とは接点がありますが、患者側とは接点がないということになるからです。医師や病院側から、雑談交じりにでも「医療現場って本当に大変なんですよ。」というお話を聞いたりすることもあるかもしれません。あるいは、「あの判決って、どうしてあんな医学界からみて常識外れの判断になってしまったんでしょうか。」などと言われることもあるかもしれません。裁判官も人ですから、自らの担当事件を判断する際に、医師や病院側から聞いた内容が頭をよぎれば、過失を認める判断をすることに躊躇してしまうかもしれません。しかし、そのような判断は中立性や公正性が保たれた正しい判断といえるか、には疑問が残ります。
患者側代理人として、どこまでのことができるかはなかなか難しい面がありますが、裁判官・裁判所が裏側でどのような接点を持っているかも踏まえつつ、それでも今回の訴訟では過失が認められること、因果関係が認められることを適切に立証を尽くしていくことになるでしょう。
会員弁護士 H.U