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精神科病院における身体的拘束と血栓症の予防

2024.03.30

精神科医療においては、今後、高齢患者や認知症患者が増加することが予想されており、それに伴い、精神科に関する法律相談も増加するものと思われます。そこで、今回は、精神科病院における身体的拘束と血栓症の予防についてです。

 

精神科病院では、入院中の患者に対して身体的拘束が行われる場合があります。

身体的拘束とは、衣類又は綿入り帯等を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限をいいます。

身体的拘束の方法には、両手・両足・胴の5点拘束や両手・胴の3点拘束がありますが、身体を直接に拘束する行動制限であるため、①自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合、②多動又は不穏が顕著である場合、③その他精神障害のために患者自身の生命に危険が及ぶ場合に該当し、身体的拘束以外によい代替方法がない場合に行われるとされています(昭和63年厚生省告示第130号)。

 

この身体的拘束に関連して発症し突然死に至るものとして、肺血栓塞栓症があります。

肺血栓塞栓症は、下肢などにできた深部静脈血栓が遊離して肺動脈を閉塞して発症します。現在では、深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PTE)を併せて、静脈血栓塞栓症(VTE)と称されており、また、「エコノミークラス症候群」とも呼ばれて、飛行機内などの狭い空間において長時間同じ姿勢をとり続けて発症することが知られています。

 

精神科医療においては、この静脈血栓塞栓症の発症が珍しくありません。特に、身体的拘束のうち5点拘束が行われる場合には、両下肢と胴が固定され、さらに向精神薬の投与による過鎮静が加わり無動の状態が継続することで下肢の血流が停滞します。この下肢の血流の停滞が深部静脈血栓症の原因となるのです。

 

精神科医療における肺血栓塞栓症の対策として、2006(平成18)年、日本総合病院精神医学会により、「静脈血栓塞栓症予防指針」が発行されています。そこでは、発症リスクとして、脱水・肥満・高齢などの基本リスクの他に、身体拘束と鎮静を増強リスクとしてリスクレベルを評価することとし、リスクレベルの段階に応じて、早期離床・積極的な運動、弾性ストッキングの着用、薬物的予防法などの実施が推奨されています。

そこで、身体的拘束中に突然死に至った事案のうち、死因が肺血栓塞栓症である場合には、予防対策が十分に実施されていたかどうかが上記の予防指針等に照らして検討されることになります。

 

会員弁護士S.D

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