医療過誤事件とADRの活用
2024.05.31
医療過誤事件において、医療機関側との任意の交渉では紛争の解決が図れない場合には、民事訴訟等の法的手段をとることを検討することになりますが、解決を図る場の選択として、裁判外紛争解決機関(ADR)の活用も考えられます。簡易裁判所において行う民事調停も広い意味ではADRの一種ですが、今回は民事調停ではないADRの活用について取り上げてみます。
我が国において医療過誤事件の解決に利用可能なADRとしては、各地の弁護士会が立ち上げているADR機関があり、東京や愛知の弁護士会は、医療事故と専門的に取り扱うADRを設けています。これらのADRは、患者側・医療側の弁護士が調停のあっせん委員となって紛争の解決にあたっており、法的責任の有無に争いがある案件でも活用されている状況にあります。
大阪の場合、弁護士会が単独で運営するADRは存在せず、「民間調停センター」という名称で、弁護士会と関連士業団体が公益社団法人として設立して運営するADRが存在します(事務局は、弁護士会館1階にあります)。このADRは、医療事故も取り扱っており、医療事故案件の場合は、弁護士のあっせん委員に加えて、医師又は医師資格のある弁護士があっせん委員となる仕組みになっております。弁護士のあっせん委員としては、私を含め、当研究会に所属する弁護士など、患者側弁護士があっせん委員となっています。
では、どのような案件について大阪の民間調停センターでの解決が選択肢になるでしょうか。私自身の意見としては、①医療機関側が過失は認めているが、結果との因果関係や損害額(後遺障害等級など)に争いがある事案、②比較的損害額が少額で、患者側として代理人弁護士に依頼して法的手続きをとることが費用対効果の観点から難しい事案(美容整形に関する案件や歯科案件など)、③訴訟で法的解決を図ることが内容的に難しいが、患者側と医療機関側で深刻な紛争になっている案件(医師による患者や患者家族に対して不適切な言動等がある事案や、逆に患者や患者家族側が医療機関側に対して行き過ぎた反応をしている事案など)は、ADRの利用が検討に値すると思われます。②の場合には、患者側としては、自力で協力医を確保できなくとも、あっせん委員として医師が入ることに大きなメリットがあると思われます。
私自身がこれまで関与した案件においては、調停の成立割合は8割を超えており、患者側の代理人として関与する場合とは違う意味でのやりがいを感じることも多いです。
皆さんにも、解決の選択肢のひとつとして思い浮かべていただければと思います。
https://minkanchotei.or.jp/
会員弁護士 H.I