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弁護士リレーブログ

患者側弁護士が「白い巨塔」をみた

2023.08.30

1 「白い巨塔」をみました。

この夏,再放送されていたドラマ「白い巨塔」(唐沢寿明さん主演)を視聴しました。あまりにも有名な作品であり,内容をご存じのかたも多いでしょう。

大学病院を舞台とした濃厚な人間模様・患者(遺族)の気持ちと医師の気持ちのミスマッチ・患者の死・裁判・主人公財前医師の最期など,どこをとっても重厚な人間ドラマに仕上がっていて,気づけば夢中で見入っていました。20年前の作品だというのに,最終回後にはSNSで「巨塔ロス」の声がたくさんあがったというのもよくわかります。

その中でも,裁判関係のシーンを特にチェックしてしまったのは,やはり職業病というものでしょうか。

最近は弁護士や裁判が出てくるドラマも当たり前に放映されていますが,中には,正直「こんな弁護士おらんわ・・」「裁判の進み方がリアルじゃない・・」「こんなに安易に解決せんわ・・」という作品もあり,その時点で見る気が失せてしまう訳です。

しかし,「白い巨塔」は違います。まず,患者側・医療側とも,かなり綿密な立証計画を立てて,証拠集めや裁判準備をしています(ただし,一部カルテの改ざんや証人への接触というような立証妨害のシーンも出てきます。昔ならいざしらず,今の時代,さすがにそんなことはないと信じています・・。)。法廷シーンも,もちろん演出上のデフォルメや多少の改変はありつつも,鑑定人尋問・対質尋問(患者側・医療側の証言者を並べて尋問すること)という,医療裁判ならではの手続を取り入れながら,時に「裁判は生き物」とも称される迫力あるやりとりを再現しており,裁判ドラマとしても一級品だと感じました。

「白い巨塔」の映像を流しながら,「この場面が素晴らしい」とか「ここは少し違う」とか語りたいくらいですが紙数に限りがあるので,特に心に残った点を記しておきます(注:あくまで筆者の個人的感想です。)。

 

2 患者が医師に期待するもの,患者が弁護士に期待するもの

(1)「白い巨塔」では,「患者が医療に期待するもの」という命題,そして,患者と医師のコミュニケーションの在り方がテーマの一つとして示されています。

ドラマの中で,食道がんの患者とその家族は主治医の財前医師から手術を強く勧められ,気が進まないながら承諾します。ところが術前検討会で,がんが肺転移している疑いが発覚し,同僚らが検査を進言したものの,財前医師はこれを拒んで強引に手術を行い,患者は術後早い時期に亡くなりました。がんは進行が早く根治は難しかったようですが,手術をしないで抗がん剤治療に切り替えれば年単位の延命が期待できる状況にありました。

大阪地裁の第一審では患者側(遺族)が全面敗訴します。しかし,患者側・関口弁護士は患者・遺族の目線で医療の意義を考え続け,最終的に「患者がよりよい生を全うするためのもの」と位置付けます。そしてこれを「治療法の選択肢に関する説明義務」と法的に構成し,裁判の局面を大きく変えました。「手術をして根治の可能性に賭ける」選択もあれば,「抗がん剤治療で延命し,その間に生前整理を進める」選択もあって良い,患者がどういう生を求めるかを決める機会を提供すべきだということです。

財前医師が手術を急いだ意図が(多分に政治的な理由もありつつ)早期の外科治療による病気の根治にあったことは決して嘘ではなかったと思います。しかし,仮に根治が難しかったとしてもなお,医療は患者の生を全うさせるための治療を提供できる機会があるはず,医師はそれを忘れてはならない,という教訓を含む控訴審の逆転判決でした。

 

(2)そして,医師と同様,裁判を担当する弁護士も,依頼者である患者・遺族が何を望むのか「遺族が弁護士に期待するもの」を考え続けなければならないと再確認させられました。

ドラマの関口弁護士は,遺族の無念を受けて裁判を進めていきますが,弁護士といえども,遺族の感情と正面から向き合うことは,時に辛いものです。第一審で敗訴した後の,関口弁護士と遺族・親戚との会話はあまりに厳しく,単なる一視聴者である筆者すら,本当に胃が痛くなりました。

それでも,関口弁護士はあきらめず,最終的には「患者が医療に期待するもの」という命題に立ち返って裁判を進めていきました。

結果としての勝訴・敗訴だけではなく,「患者や遺族が医学に期待するもの」を法律の場で問うていくこと,それが「遺族が弁護士に期待するもの」だったのですね。

 

会員弁護士 T.T

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