手術動画は個人情報?
2022.08.30
今年5月、複数の眼科医が白内障の手術動画を患者に無断で医療機器メーカーに資料提供していたことがNHKで報道されました。この報道は、これが個人情報保護法に違反する行為であるとしていましたが、他方で、手術動画は個人情報保護法に基づく開示の対象ではないと主張する医療機関も存在します。個人情報保護法の解釈として、どちらが正しいのでしょうか。
個人情報保護法は、個人情報の定義として、「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」としています(個人情報保護法第2条第1項第1号)。この定義だけをみますと、手術動画に患者の氏名や生年月日等が入力されていなければ、個人情報には該当しないことになりそうです。
しかしながら、この定義には続きがあり、「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む」とされているのです。手術動画の場合、その内容をみれば、少なくとも手術の内容、すなわちどのような部位・臓器に対するどのような内容の手術なのかは判明するはずです。また、手術動画には、通常、撮影年月日は記録されているはずですから、これにより、例えば、「2022年8月25日に実施された脳動脈瘤のコイル塞栓術」といった形で、手術日と手術内容は特定されることになります。病院には、手術を受けた患者に関する診療記録があり、現在これはほとんどの病院で電子化されて存在しますから、診療録や手術記録と対照すれば、当該手術を受けた患者が誰なのかは容易に特定できることになります。
したがって、少なくとも、病院において保管されている手術動画は、通常は、個人情報保護法上の個人情報に該当すると考えるべきでしょう。
なお、地方自治体が設置している病院や地方独立行政法人が設立している病院の場合、個人情報保護法は適用されず、独自の個人情報保護条例が適用されることになりますが、個人情報の定義は個人情報保護法との間でほとんど差がないのが一般的ですから、手術動画の個人情報該当性については、同様に考えるべきことになるでしょう。
個人情報に該当するのであれば、個人情報開示請求の対象となります。診療情報の開示請求にあたっては、手術動画の有無も確認し、存在するのであれば、これについても開示の対象とすべきことになります。
会員弁護士 H.I