医療事故情報センター総会記念シンポジウムに出席して
2021.06.30
1 2021年5月29日に開催されました医療事故情報センター総会記念シンポジウム「これからの医療事故調査制度を考える-制度施行後5年を経て-」に参加しました。
2 最初に、医療事故情報センターについて説明しておきます。同センターは、1990年12月に設立された患者側弁護士の全国組織であり、現在の会員数は600名を超えております。同センターは、整備された協力医紹介の仕組みを有しており、私自身は、協力医を探す場合の第一選択として、同センターに協力医の紹介依頼を行っています。ただし、同センターは、会員のみに協力医の紹介を行っています。大阪の研究会に所属する弁護士全員が同センターの会員になっているわけではありませんので、当研究会の会員全てが同センターを利用できるわけではありません。
3 今回のシンポは、制度施行後5年を経過した医療事故調査制度について考えるものであり、パネリストは、高梨ゆき子氏(読売新聞編集委員)、宮原保之氏(日本医師会医療安全対策委員)、宮田哲郎氏(日本医療安全調査機構総合調査委員会委員長)、加藤高志氏(弁護士)、寺井美峰子氏(北野病院看護部長)の5名でした。
4 高梨氏の報告によれば、医療事故調査制度の対象となる医療事故発生報告件数は、年間300件台で推移しており、報告件数は伸び悩んでいるとのことでした。このように報告が伸び悩む原因については、対象となる医療事故が管理者が「予期しない死亡」と判断した場合とされており、医療機関側の裁量が大きく、報告を避ける傾向があることが指摘されました。
5 宮田氏からは、医療法第6条の17に規定されている「医療事故調査・支援センター」の調査(いわゆる「センター調査」)の実情について報告がありました。同センターは、医療事故があった病院の管理者又は遺族から依頼があったときに必要な調査を行うことができるとされており、これまでの5年間で、合計141件の調査を行ったとのことでした。このうち、8割以上が遺族からの調査依頼だったとのことでした。このことからは、医療機関が行う医療事故調査に対する患者の遺族側の不満や不信が強いことがうかがわれるところです。
6 私自身のこの間の経験としても、本来、医療事故として調査の対象とされるべき事案について、医療機関側が医療事故ではないとして医療事故調査を行わない事案を担当したことがあります。患者の遺族としては、院内で患者が転倒して頭部外傷を負ったのち、脳内出血により死亡した事案について、転倒発見後の医療機関側の対応に問題があるのではないかと考えていたのですが、「医療事故ではなく、転倒事故である」として調査の対象にしなかったという事案でした。
7 調査の対象となる事故が限定されていることは医療事故調査制度の限界・問題点であり、医療法の改正を求めていく必要があると思われますが、医療過誤に取り組む患者側弁護士としては、現在の制度下における医療事故調査がより公平・中立で適正なものになるよう、努力をしていく必要があると思われます。患者側弁護士自身が調査委員会のメンバーになることが実現すればよいのですが、関西ではそのような事例は少数にとどまっているものと思います。調査委員会のメンバーになれないとしても、調査段階のおいて、患者の遺族の代理人として問題指摘や意見提出を行い、必要に応じて「センター調査」の依頼を行うことにより、医療事故調査のあり方を改善するという取り組みもありうると思います。
8 宮田氏の報告によれば、センター調査において、臨床経過の事実認定を確実に行い、臨床経過の網羅的な検証を行うこと、センター調査結果が院内調査結果と異なる点について丁寧な説明を行うこと等を心がけているとのことでした。私自身はこれまで、センター調査の実情についてほとんど知識がありませんでしたが、実情を知る貴重な機会となりました。
会員弁護士 H.I