専門委員制度について
2018.03.01
医療訴訟では、必ず医師による鑑定が行われると思っている方も多いかもしれませんが、必ずしも鑑定が行われるとは限りません。なぜなら、まず、鑑定をするには、1件約50万円ほどの鑑定費用を予納しないといけません。しかも、鑑定結果は必ずしも申し立てた当事者に有利な内容とは限りません。ですので、自分に有利な鑑定がなされるであろうという自信がなければ、鑑定の申立は避けた方がいいということになります。
鑑定をせずに、自分に有利な医師の意見を証拠に出したい場合は、自分に有利な判断をしてくれる医師を探し出して、その医師に私的に鑑定を依頼する方法があります。そのようにして作成された文書は鑑定意見書などと呼ばれます。しかし、このような鑑定意見書を書いてもらうにしても、医師に支払う報酬は、30万円から50万円くらいかかります。
そこで、最近では、専門委員を利用することが増えています。専門委員とは、医療訴訟や建築瑕疵訴訟などの専門的知識を要する訴訟において、訴訟の争点や証拠の整理をする際に、裁判官や当事者に対して、専門的な知識に基づく説明をしてもらうための委員のことです。医療訴訟では医師が専門委員となります。専門委員は、裁判所の職員ではないのですが、委員として働くときだけは、裁判所職員と同じような立場になります。法律上は、専門委員は、訴訟の争点や証拠の整理について、前提となる知識を説明するという立場にあるのですが、訴訟の両当事者ともが望めば、医学上の争点の結論についてまで、専門委員に説明を求めることができます。つまり、鑑定人と同じような意見を専門委員に求めるのです。そして、専門委員の費用は全て裁判所が負担しますので、当事者には金銭的負担がかかりません。それなのに専門的な意見を出してくれますので、このようなことから大阪地方裁判所では、専門委員を鑑定意見を聞くために利用するということが多くなっているようです。
しかし、専門委員も患者側に有利な意見を出してくれるとは限りません。そこで、専門委員から不利な意見を出された後に、さらに鑑定をしてもらうという方法もないではありません。それでも、専門委員が一旦出した不利な意見は、裁判官の心証に影響しますので、その心証を鑑定で覆すことができるかどうかは分かりません。
専門委員制度により、医学上の専門的知識を得る選択肢が増えたのですが、それを利用するかどうかは、よく検討する必要があるようです。