医療紛争が生じる背景について
2025.11.30
患者本人やその家族が、「医療過誤ではないか」という疑念を抱いて弁護士にご相談に来られる時点で、既に医療機関との信頼関係が損なわれているケースがほとんどです。
患者側の代理人として数多くのご相談をお受けしてきた経験から鑑みると、患者側が弁護士に相談を決意されるきっかけは、単に悪しき結果(不幸にも死亡されたり、重大な後遺症が残存したりすること)が生じたことそれ自体ではなく、医師や看護師等の医療従事者の「言動に傷ついたこと」が原因であるという印象を強く持っています。
十分な説明がなされなかったり、ぞんざいに扱われたりしたことで、患者の尊厳が傷つけられ、それが最終的に医療機関との信頼関係の喪失へと繋がります。
医療過誤といえるレベルに至らず、むしろ標準的な医療行為が提供されていたケースであっても、医療従事者の言動一つで深刻なトラブルを引き起こすことがあります。「もっと丁寧に説明をしてくれていれば、このようなトラブルになることはなかっただろう」と感じるケースも少なくありません。
医療従事者においては、多忙を極める業務の中で、患者や家族に対して常に丁寧な対応を継続することが困難な場合もあるかと思います。しかし、不十分な対応が深刻なトラブルへと発展するリスクを常に念頭に置いていただき、患者側の心情に真摯に寄り添った対応や説明を心がけていただきたいと思います。
他方で、トラブルが発生する背景は、医療側のみにあるとは限りません。
患者や家族側の中には、医療従事者に対して高圧的な態度で対応や説明を求めたり、訴訟を示唆して威圧的な言動をされたりするケースも見受けられます。これにより、医療従事者側が萎縮・警戒し、態度が硬直化してしまうという事態も起こり得ます。
患者側は医療の専門家ではないため、不明な点が多いのは当然のことです。しかし、「自身の常識と異なる」という理由だけで直ちに医療機関側を責めるのではなく、「なぜ医療機関はそのような対応を選択したのか」をまずは冷静に耳を傾けてみるという姿勢が、円滑なコミュニケーションと問題解決のために極めて重要です。
医療の現場におけるトラブルをできる限り防ぐためには、医療側からの丁寧な説明と、患者・家族側からの冷静で建設的な対話の姿勢、この双方向の努力が必要と思います。
会員弁護士 Y.U





