医療過誤・医療ミスに巻き込まれたら一人で悩まずに専門の弁護士へ相談を【大阪医療問題研究会】

メール申込24時間受付

  • contact
弁護士リレーブログ

矯正治療における法律トラブル

2025.10.30

1 はじめに
歯列矯正は、外見を整える効果にとどまらず、咬合機能の回復や顎関節症の予防といった医療的意義を有する治療として、近年ますます需要が高まっています。他方で、自由診療が中心であるがゆえに、費用・治療期間・結果に関するトラブルも少なくありません。
 
2 自由診療契約としての矯正治療
矯正治療は原則として健康保険が適用されず、患者と歯科医師との間の「自由診療契約」に基づいて行われます。治療期間の目安、治療費や分割払いの条件、追加費用の有無など契約の主要要素は医師ごとに異なるため、本来は契約書や同意書を通じて明確化すべきです。しかし、現実には口頭説明にとどまるケースも少なくなく、契約内容が曖昧なまま治療が進むと、後に「説明を受けていない」「予定外の費用が発生した」といった紛争に発展するリスクが高まります。
なお、矯正契約は一般的に結果を保証しない「準委任契約」と解されています。したがって、期待した結果が得られなかったからといって直ちに歯科医師の過失が認められるわけではありません。ただし、歯科医師が契約時に「理想的な歯並びになる」「後戻りはしない」といった断定的説明を行っていた場合には、例外的にその説明が契約内容と解され、結果が伴わなければ契約不履行による損害賠償責任が認められる可能性があります。
また、治療途中で患者が契約を解除した場合の返金義務の有無は、治療の進行状況や契約書の記載に基づき、個別に判断されます。
 
3 説明義務(インフォームド・コンセント)
矯正治療を開始するにあたり、歯科医師は患者に対して、抜歯の要否、治療方法の選択肢(ワイヤーかアライナー(マウスピース矯正)か、など)、治療結果の見通し、治療上のリスク(歯根吸収・歯肉退縮・顎関節への影響など)、治療期間の変動可能性、後戻りの可能性などを十分に説明し、患者の理解と同意を得なければなりません。これが説明義務です。
矯正治療ではこの点がもっとも争点となりやすく、たとえ治療方法が医学的に妥当であったとしても、リスクや代替手段を知らせていなかった場合には「説明義務違反」として損害賠償責任を認めた裁判例も存在します。
 
4 矯正の実施に際してのトラブル
矯正は数年単位の長期治療であり、治療期間が当初の予定より延長することも珍しくありません。その過程で患者が期待を裏切られたと感じ、不信感を募らせた結果、トラブルに発展することがあります。
(1)医療過誤の成否
患者の期待と結果に乖離がある場合、患者は「矯正は失敗ではないか」と疑念を抱きがちです。しかし、矯正契約は結果を保証しない準委任契約であるため、悪い結果=過失とは直結しません。過失の有無は、当該時点における一般的な歯科矯正の「医療水準」に照らして判断されます。例えば、過度な歯の移動による歯根吸収や咬合不全が生じた場合、学会ガイドラインや専門医の意見を参考にして、歯科医師が標準的な注意義務を尽くしていたか否かが判断されるというわけです。
(2)契約上のトラブル
治療期間が延長し追加費用が発生する場合、延長の医学的必要性について事前説明が不十分であれば、契約違反や説明義務違反として紛争化しやすくなります。患者は「約束の期間で終わっていない」と主張し、医師は「医学的にやむを得ない延長である」と反論しますが、最終的には契約書や同意書の記載が判断の基準となります。
また、治療途中で患者が契約を解除した場合の返金義務の有無も、治療の進行状況や契約書の記載に基づき個別に判断されます。
 
5 おわりに
矯正治療は、医療契約と医療過誤の両面から法律問題が生じやすい分野です。自由診療であるがゆえに費用や期間に関する契約トラブルが多く、医療行為であるがゆえに説明義務違反や医療過誤の有無が訴訟の争点となります。
紛争を予防するためには、歯科医師による十分な説明と記録、患者による契約内容の確認が不可欠です。歯科医師側は契約書・同意書を文書で交わすこと、説明内容をカルテ等に記録すること、治療経過を写真やデータで保存することが求められます。他方で患者側も、治療計画や契約内容を十分に理解し、不明点を残さない姿勢が必要です。
 
会員弁護士 T.T

PAGE TOP