新型コロナウイルスワクチン接種による健康被害救済制度について
2025.06.30
世界的に猛威をふるい、日本でも緊急事態宣言が繰り返し発令され、入出国も制限されるなど、経済や市民生活に大きな打撃を与えた新型コロナウイルスの流行もようやく一応終息した状況にあります。
私は、最近、我が国における新型コロナウイルス流行の初期に発生したダイヤモンドプリンセス号における集団感染を取り上げた映画「フロントライン」を観てきましたが、たった5年前の出来事だったのに、自分の記憶が薄まってしまっていることに驚きました。
このウイルスの世界的な流行を終息させるについては、新たな技術に基づいて開発されたワクチン接種が世界的に空前の規模で展開されたことも大きく寄与したものと考えられますが、ワクチン接種により深刻な後遺症が発生したり、摂取後に死亡したりする事例が少なからず報告されています。
ワクチン接種については、一定の確率で副反応による後遺症等の健康被害が生じることは避けられないところであり、わが国では、過去に、予防接種禍について国に賠償を求める集団訴訟が提起されてきた歴史があります。当研究会も、大阪の予防接種禍弁護団が母体になって設立されたという歴史を持っています。
現在、国には、予防接種による健康被害について補償を行うための救済制度が存在し、新型コロナワクチンによる被害もこの制度の対象となります。
この健康被害救済制度の趣旨について、厚生労働省は、「法に基づく予防接種は社会防衛上行われる重要な予防的措置であり、極めて稀ではあるが不可避的に健康被害が起こりうるという特性があるにも関わらずあえて実施しなければならないということに鑑み、健康被害を受けた者に対して特別な配慮をするために設けられた制度」である旨説明しています。
具体的な手続きですが、この制度による給付を受けるためには、国が設けている疾病・障害認定審査会の審査を経る必要があるとされています。この審査会においては、申請資料に基づき、個々の事例ごとに、症状の発生が医学的な合理性を有すること、時間的密接性があること、他の原因によるものと考える合理性がないこと等について、医学的見地等から慎重な検討を行うものとされています。
ただ、認定の判断にあたっては、「通常の医学的見地によれば、当該疾病が当該予防接種によって起こることを否定はできない」場合には健康被害と認定するものとされており、通常、民事訴訟で因果関係について要求される「高度の蓋然性」と比較すると、立証の程度が相当緩和されているといえます。
ワクチン接種に基づく健康被害に悩んでおられる方は、この制度の利用をご検討下さい。
厚生労働省ホームページ
会員弁護士 H.I