バッドニュースの伝え方-コミュニケーションの技術
2025.05.27
医療現場において、医師は、患者本人または近親者に対して、末期の癌、治療をしても余命は数か月といった辛い事実を伝えなければならない場面に直面することがままあることでしょう。
どのようにバッドニュース(患者の将来への見通しを根底から否定的に変えてしまう知らせ)を伝えることが、医師には求められているのでしょうか。
まずは、①インフォームドコンセント、そして②伝え方の技術が重要だと考えられます。
①のインフォームドコンセントについては、既にご存知の方も多いことでしょうが、「病状や治療法などについて医師から患者に情報を開示して説明をし、患者がその内容を理解した上で、自分の治療について同意・決定するというプロセス」を意味します。何もかも医師任せにするのではなく、患者が主体的に治療法を選択し決定すること、即ち、しっかり理解してしっかり決めるということです。
気をつけなければならないのは、杓子定規な説明がインフォームドコンセントの求める情報開示や説明ではないということです。
そこで、注目されるのが、②の伝え方の技術です。
同じ悪いニュースでも、伝えられ方によって受け止め方が随分変わることは、日常生活の中でもよくあることです。
バッドニュースを伝えられた患者が、大きなショックを受けるであろうことは想像に難くありません。しかし、バッドニュースの伝え方によっては、その衝撃をいくらかでも和らげることができるのではないでしょうか。
患者は、伝えられる内容だけでなく、その後の気持ちへの配慮を望む傾向にあると言われています。
バッドニュースの事実を枉げて伝えることもできませんし、患者や家族の心理的な衝撃をゼロにすることもできません。それでも、伝える側が、木で鼻を括ったような説明ではなく、相手の気持ちに心を寄せて、伝え方を工夫することで、患者や家族の気持ちがずいぶん楽になることがあると思います。
ある知人の経験をご紹介させていただきたいと思います。
彼女は、かつて鬱病で苦しんでいた時期がありました。高名な心療内科医の紹介を受け、受診したそうです。その医師は、彼女をじっくりみることもなく、彼女が、藁をもすがる気持ちで「必ず治りますよね」と尋ねたところ、言下に「いいえ、治らないこともあります。」と答えたのです。鬱病に関する書籍を何冊か読んでいた彼女は、確かに、投薬が奏功せず、なかなか快癒しない遷延性・難治性鬱病というものがあることは知っていたそうです。ですから、医師の回答は、医学的には正解なのです。しかし彼女は、2度とその医師にはかかりませんでした。
その後、彼女は、近所の小さな心療内科クリニックを訪ねました。そこの医師は、30分以上かけて彼女の話を聞いて、「必ず良くなる、但し、そのためには次の5つを守ってね。」と言われたそうです。その5つ全部は彼女も覚えていないのですが、一つだけははっきりと覚えているのは、「死なないでね、死んだら治せないから。」ということでした。彼女は、全面的にこの医師を信頼し、幸い、数か月後には鬱病から立ち直りました。
「病は気から」といいますが、病気を治すのは、医療技術だけではありません。医師に対する信頼感、それがまずは基本ではないでしょうか。
医療効果を上げるには患者の信頼が不可欠であることを認識し、医師には、コミュニケーションの真の意味を考えていただきたいと思います。
会員弁護士 Y.U