患者無視の予約システム
2025.01.30
1 先日、依頼者の医療事故による後遺症について、後医としてのご意見をお聞きするため、京都にある某大学附属病院に行きました。依頼者には予め2時に予約を入れておいてもらい、私は、2時前には病院に到着し呼び出しを待ちました。ところが、待てど暮らせど、呼び出しがありません。やがて1時間半余りが経過した時、ようやく呼び出しがありました。時間はすでに3時半を過ぎており、入室すると、その医師は、疲れたようなご様子で、朝からの予約がはけず、午後4時前になっているのにその日の昼食も取れていないということでした。しかも4時からは、また別の予約が入っているとのことです。あまりにお気の毒なので、手短にわずか10分ほどで用件を済まさざるを得ませんでした。聞けば、予約といっても、同じ時間に何人もの予約が同時に入っているとのことでした。
2 同じような体験を、私は大阪市内の市立総合病院でも経験したことがございます。私が別の病院の人間ドックに入って要検査項目が見つかり、以前から通っていたその病院で、今後の再検査の相談をして欲しいとのことだったのです。予約時間は確か夕方の4時だったと思います。定時に病院に到着した私は、予約を入れているので、せいぜい待たされても1時間足らずだろうと高を括っていました。しかし、この時も、待てど暮らせど呼び出しがかかりません。あまりのことに、何か緊急事態でも起きたのですかとお聞きしましたが、特に緊急事態も発生していないとのことでした。結局6時半になっても呼び出しが来ず、別の用件もあったため、私は、予約をキャンセルして事務所に戻りました。この病院でも、同じ時間に複数の予約が同時に入っているとのことでした。
3 同じような経験は、相当以前ですが、大阪地方裁判所でも日常的でした。同じ時間に複数の事件の第1回期日が指定され、当事者双方が早く揃った組から審理が開始されたのです。自分が早く行っても訴訟の相手方が来なければ、いつまでも自分の順番が来ないのです。今から考えると明らかに不合理なことですが、裁判所の都合からすると、先に揃った当事者から順に審理を始めれば無駄がないのでよかったのです。しかし、さすがに多くの弁護士から、時間通り出廷しても待たされるのは不合理だから、時間指定を同時にせずに、少しづつずらして欲しいと抗議があり、この不合理な時間指定はなくなりました。
4 ところが医療の世界では、未だにこの不合理な時間指定がなされているようです。なぜ、病院は、この時間指定の身勝手さ、厚かましさ、不合理さに気づかないのでしょうか。そもそも、同じ時間に複数の予約を入れても、聖徳太子でもないかぎり、同時に複数の患者を診ることなどできるはずがありません。複数の予約を入れた時点で、一人以外の予約は約束違反になる運命です。病院の都合のため、患者の貴重な時間を奪う行為は明らかに約束違反です。しかも、30分毎ないし1時間毎に予約を入れるのであれば、30分毎ないし1時間毎に、待たせる患者を量産することになります。しかも、予約が入っているのに、どの程度予約がはけているのかも患者に知らさないシステムでは、患者の待期時間は、どんどん累積するばかりです。患者は不合理な予約システムのために、トイレに行くにも気を使いながら行かねばなりません。お医者さんが偉いことは否定しませんが、患者の貴重な時間を断りもなく奪えるほど偉いとは思いません。こんな最初から守れない予約システムなど、早急に改善すべきだと思います。
5 まして、こんな予約方式は、医師自身をも拘束します。なぜなら、最初から患者を待たせたお詫びから、診察を開始しなければならないからです。しかも、予約時間には、医師自身の昼食時間も入っておらず、終業時間も組み込まれていません。これでは医師の労働時間もきちんと守られないからです。早急にこんな予約システムを改善し、溌剌とした医師の下で診察を受けたいのは私だけではないと思います。
会員弁護士 Y.A