医療過誤事件における法律扶助(法テラス)の利用
2023.05.30
資力や収入の乏しい依頼者が弁護士に法的手続きを依頼する場合に弁護士費用を立て替えて援助する仕組みとして、日本司法支援センター(法テラス)が行っている民事法律扶助事業があります。民事法律扶助は、医療過誤事件の依頼を受ける場合にも利用が可能ですが、多くの患者側弁護士は、法律扶助を利用して受任することはしにくいと考えています。私自身も、生活保護を受給されている方やそれに近い収入水準の方の場合を除き、医療過誤事件において法律扶助を利用することには消極的です。
その理由ですが、ひとつ目は、法テラスが決定する弁護士費用が低廉に過ぎるということです。法テラスの弁護士費用が低廉なことについては多くの弁護士が不満を持っていますが、特に医療過誤の場合、受任した事件が終了するまでの期間が通常の事件と比較して相当長いうえ、受任事件の対応において弁護士が費やす労力負担は通常の事件の3~5倍程度になるというのが実感であり、全く割に合いません。また、法律扶助は、単独の弁護士による受任を原則としており、医療過誤事件であっても複数の弁護士で受任することを認めていません。これでは、十分な体制を組んで案件対応をすることができず、患者側にとって納得のいく解決を図ることができなくなってしまいます。
理由のふたつ目は、調査を目的とする受任について弁護士費用を支払う仕組みがないことです。私たち患者側弁護士は、相談を受けた案件については、最初の段階でまず調査を行います。医療機関から開示された診療記録の内容を検討し、医学文献等の医学情報をリサーチしたうえで、協力医の意見を求めるというのが一般的な作業です。これに相当の時間と労力を要しますので、調査を目的とする委任契約を締結して、弁護士費用を請求させていただいています。ところが、法律扶助の場合、このような調査に対しては弁護士費用が出ないのです。
依頼者側からみた場合、法律扶助においては、鑑定費用や医師の意見書作成費用についても限度額はあるものの立替払が認められており、メリットもあるのですが、受任する弁護士にとってはとても厳しい状況があります。法律扶助において、医療過誤に限りませんが、難易度の高い案件についての報酬引き上げを実現する必要があると思います。
会員弁護士 H.I