がん患者の生存率に関する新たな報告書が公表されました
2023.04.30
医療過誤訴訟においては、損害額の算定、特に、逸失利益(死亡や後遺障害がなければ本来得られていたはずの将来の収入)の算定にあたり、生存率に関するデータが資料として用いられることがあります。
生存率のデータに関して、令和5年3月16日、国立がん研究センターより、がん患者の5年生存率と10年生存率に関する報告書が公表されました。
(https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/hosp_c_reg_surv/index.html)
生存率とは、一般に、診断から一定期間後に生存している確率のことをいいます。
今回公表されたデータは、①2014-2015年の院内がん登録データ約94万例を対象とする5年生存率、②2010年の院内がん登録データ約34万例を対象とする10年生存率です。いずれについても、がんの種別毎に、性別、病期別、年齢階級別、手術の有無別に生存率が示されています。
このような院内がん登録データを用いた5年生存率の報告は今回が8回目、10年生存率の報告は今回が4回目となります。
今回の報告のポイントは、これまで生存率として、実測生存率と相対生存率が公表されてきたのに対し、今回は、相対生存率に代わり「ネット・サバイバル(純生存率)」が公表された点です。
実測生存率は、他の原因による死亡とがんによる死亡とを区別することなく全ての死亡を計算に含めた生存率であるのに対し、相対生存率とネット・サバイバル(純生存率)は、特定のがんのみが死因となる場合の生存率を算出したものです。
このうち、相対生存率が実測生存率を「がんのない場合の生存率」で割ることで算出されるのに対し、ネット・サバイバル(純生存率)は「がんのみが死因となる場合の生存率」自体を推定する方法により算出されるものであり、国際的に広く用いられている方法です。
このネット・サバイバル(純生存率)は、これまで公表されてきた相対生存率よりも低い値が出る傾向にあることに留意する必要があります。
特に、高齢者の多いがん種(胃がん、大腸がん、前立腺がんなど)において、また、10年生存率のように観察期間が長いほど、相対生存率とネット・サバイバル(純生存率)の差が大きくなりやすいと指摘されています(下表参照)。
相対生存率 | ネット・サバイバル | |
全がんの5年生存率 | 68.2% | 66.2% |
全がんの10年生存率 | 60.5% | 53.3% |
胃がんの10年生存率 | 67.1% | 57.6% |
(国立がん研究センター発表用資料より作成)
生存率に関するデータは、これまでに様々な機関から各種公表されていますので、医療過誤訴訟において利用する場合には、各種の生存率データにつき集計方法等を慎重に検討したうえで、事案に沿った適切な生存率データを選別する必要があるといえます。
会員弁護士 S.D