がん患者の生存率
2021.01.31
前回のこのリレーブログでは,2020年12月12日(土)に開催された第42回医療問題弁護団・研究会「全国交流集会in愛知」において,大阪医療問題研究会の研究グループより,「がん見落とし事案における逸失利益算定に関する研究」とのテーマで研究報告を行ったことをお伝えしました。
今回から数回にわたり,研究グループのメンバーから,研究発表の内容を紹介していきます。
皆さんは,がん治療に関して「生存率」という言葉を聞いたことがありますか?
がん見落とし事案に関する過去の裁判例を検討していく中で,「逸失利益」(死亡や後遺障害がなければ本来得られていたはずの将来の収入)の算定にあたり,「5年生存率」に関するデータを引用している裁判例が多く見られました。
しかし,裁判官や裁判の当事者が,「生存率」の算定主体,算定方法,その信用性などの詳細について理解していたかどうかは疑わしいところです。
そこで,我々は,「逸失利益」を検討する前提として,「生存率」について調査をすることにしました。
以下に,「生存率」の基本的な事項を簡単に説明します。
生存率は,一言で言うと,診断から一定期間後に生存している確率のことであり,5年生存率がよく利用されます。これは,がんの部位にもよりますが,再発なく5年が経過すれば治癒したものと考えられることからです。
この生存率の算定にあたっては,対象患者の特性(性別や年齢),対象患者の選び方(入院患者だけか外来患者を含めるかなど),がんの進行度(早期のがんか進行したがんかなど)はもちろんのこと,それらの情報の入手方法やその精度が大きく影響します。
他方で,生存率の算定に関する統一的な規格は存在していないため,様々な機関から個々に生存率に関するデータが公表されています。
また,公表されている生存率にも,実測生存率(死因に関係なく,全ての死亡を計算に含めた生存率),相対生存率(実測生存率から対象疾患以外の死因の影響を除去・補正したもの),近年注目されているサバイバー生存率(がんと診断されてから一定年数後に生存している者(サバイバー)の,その後の生存率)などがあります。
公表されている生存率データのうち,入手しやすいものを以下に紹介します。
「全国がん罹患モニタリング集計生存率報告」
国立がん研究センターより,部位別の1~5年の相対生存率が公表されています。
「がん診療連携拠点病院院内がん登録生存率集計報告書」
国立がん研究センターより,部位別の5年の実測生存率と相対生存率が公表されています。
「全がん協加盟施設の生存率共同調査」
全国がんセンター協議会より,5年相対生存率と10年相対生存率が公表されています。同協議会のウェブサイトでは,診断年,部位,臨床病期,診断日からの経過日数(サバイバー生存率),性別等を任意に組み合わせて生存率を検索することができます。
「地域がん登録資料に基づくがん患者の長期生存率(1993-2006年)」
大阪国際がんセンターのがん予防情報センターより,サバイバーの1~5年相対生存率が公表されています。
このように,生存率に関する統計データは様々なものがあり,また,治療方法の進歩によっても生存率は変化していきます。そこで,生存率を参照する場合には,公表された時期や公表している機関,生存率の種類などについて注意する必要があります。
会員弁護士 S.D