全国交流集会in愛知
2020.12.25
第42回医療問題弁護団・研究会「全国交流集会in愛知」が、2020年12月12日(土)に開催されました。
全国交流集会は毎年開催され、全国の患者側代理人弁護士が集まり、研究発表や事例報告を行い、懇親会で交流を深めています。
ただ、今年は新型コロナウイルスの影響もあり、全国から愛知に集まることは適切ではないと判断され、オンラインでの開催となりました。もちろん、初めての試みとなります。
2件の事例報告と2件の研究発表が行われました。聴講トラブルも特になく、各地の報告を聞くことができました。
11時からは「第一審勝訴判決までの弁護活動-近時の裁判例から」と題して、しまね医療問題弁護団の妻波俊一郎弁護士より松江地裁令和2年2月17日判決・経鼻胃管栄養チューブ挿入から誤嚥性肺炎・死亡に至った事案について、千葉医療問題研究会の大杉洋平弁護士からは千葉地裁令和2年3月27日判決・妊婦の肺血栓塞栓症死亡事案について、それぞれ報告がありました。
いずれの報告も勝訴判決までに工夫した点や苦労した点が発表されました。実際に裁判を担当した弁護士から話を聞くことは、判決文を読むだけでは分からない弁護活動を知ることができ、今後の弁護活動に役立つだけではなく、大変刺激を受けました。
途中休憩をはさんで14時からは、「自由診療分野における医療被害の救済と防止のあり方を考える-美容医療及びがん治療の裁判例をもとに-」と題して、東京医療問題弁護団から報告がありました。
自由診療分野における問題点や法令が整理され、美容外科分野における診療契約の考え方や患者の主観的願望を診療契約に取り込む主張の工夫などの提案・提言がなされました。これまでの裁判例の傾向を詳細に分析したうえでの発表で、大変説得力のある内容であり、患者側弁護士として取り組む新しい視点を得ることができました。
最後に、16時からは、「がん見落とし事案における逸失利益算定に関する研究」と題して、大阪医療問題研究会から研究内容を報告させていただきました。
この研究は、当会会員からの問題提起をきっかけに約2年間取り組んできたテーマでした。
逸失利益(死亡や後遺障害がなければ本来得られていたはずの将来の収入)が、がん見落とし事案では低く算定されているのではないか、という問題意識のもと裁判例の研究から始まりました。
裁判例を分析する中で、生存率が正確に考慮されていないのではないか、最高裁判決の誤った理解をもとに判決が言い渡されているのではないか、といった問題点が浮かび上がってきました。これらについても、逸失利益を考える前提知識として理解を深めました。
そして、逸失利益は、裁判例ではそもそも納得し得る理由付けもなされないまま低い算定がされていました。そのため、逸失利益に関しては、過去の裁判例を参考にして分析するのではなく、これまでにない算定方法を一から考えることとなりましたが、多くの議論を経た上で、一定の結論を出すことができました。
今回大阪医療問題研究会で発表した内容は、過去の裁判で主張されたものではないため裁判の実績があるものではありませんが、各地の弁護士にも参考にしていただきながら、今後の判決に影響を与えるものになったのはないかと考えています。
今回の発表内容に関しては、2021(令和3)年1月から、このブログの中で紹介していきたいと思いますので、参考にしていただければと思います。
会員弁護士 K.H