最近の専門委員制度について
2020.10.30
民事訴訟法を一部改正して平成16年4月から施行された専門委員制度ですが、利用件数があまり多くないと聞いていましたが、最近、医療過誤訴訟で、一定段階に進むと、裁判官から「専門委員に説明を求めませんか?」と聴かれることが増えてきました。
患者側としても、争いの額が多くなかったり、裁判提起前に協力医が見つからなかったり、裁判になってから新たな争点が出てきた場合や、話合いでの解決が望まれるのに、医療機関側、特に保険会社の説得のために中立的な専門家の意見が必要な場合などでは、「その紛争解決のために専門的知識や経験が必要となる医療訴訟において,裁判所に不足している専門的知識や経験を補う」ために専門委員に専門的知識や経験を説明してもらうことは有益です。
民事訴訟法92条の2の1項で、裁判官が「当事者の意見を聴いて」専門委員を関与させることができるとされており、当事者である原告の患者側としても前記のような場合に専門委員の説明を聞くことに異議はありません。
そして、専門委員の説明を元に、専門訴訟が円滑に進み、充実した審理が行われて判決されることだけではなく、専門委員の説明を元に和解が成立する(同法92条の2の3項)ことも期待されています。
しかし、残念なことに、専門委員の説明に公平性・中立性が欠けているとみられるためにそれらに基づいて和解の席につくこともなく、元の訴訟に戻るケースがあります。
例えば、医療の基本的な知見についての説明は詳細で正確なのにもかかわらず、当事者間で争いのある前提事実について医療側の主張する事実から結論を導き患者側の主張する事実には触れていない説明や、問題の医療行為の評価や医療水準について合理的な説明ないまま医療側の立場を容認する説明である場合です。
そのため、専門委員の説明を元に和解を試みようとしても、それに必要な当事者の合意が得られず(同法92条の2の3項)、専門委員制度が生かされない結果になります。
制度が始まった際に、最高裁判所は、「専門委員の手引き」において、「専門委員として訴訟手続きに関与するにあたって留意すべきこと」として、「専門委員は、公平・中立な立場で訴訟手続きに関与することが期待されています。一方の当事者の主張に偏った立場で説明をしていると見られると、当事者から公平性・中立性につき不満を持たれてしまう結果となります。」とされています。
しかし、専門委員を選任して説明を受けたのに公平性・中立性への不満から和解の席にも付けなかったという経験は、次から担当弁護士を専門委員制度から遠ざけることにもなりますので、専門委員選任する段階で候補者へこの留意事項を徹底するなど早急な改善が待たれます。
会員弁護士 T.S