カルテ開示について
2019.12.27
医療過誤事件においてもっとも重要な証拠は,問題となった医療行為が行われた医療機関のカルテです。問題となった医療行為が医療過誤として法的な責任を追及できるか否かを検討するためにはカルテの検討は必要不可欠ですし,医療過誤訴訟においても事実関係の認定にあたっては当然,カルテの記載が重視されます(ただし、カルテに書いてない内容や、カルテに書いてあっても改竄が疑われるような場合については別途問題になることはあります)。
そのため,弁護士に依頼するなどとして医療事件を進めようとする場合,早い段階でカルテを入手することが重要です。カルテを入手する方法としては,大きく分けて任意開示請求による方法と証拠保全による方法があります。
①任意開示請求によるカルテ開示
患者さん(死亡事故の場合は,その相続人)やその代理人弁護士が医療機関に対して,カルテ開示を任意に求める手続きです。任意にお願いをする手続きですので,かつてはカルテ開示を拒否されることも多かったようです。しかし,最近では,平成15年に厚生労働省から「診療情報の提供等に関する指針」が出され,また,個人情報保護法の施行がなされたこともあり,現在ではカルテ開示そのものを拒否されることは少くなりました(もっとも個人医院等の小規模の医療機関や精神科などでは,カルテ開示を拒否されることがあるようです)。しかし,任意開示によるカルテ開示では,カルテの一部しか開示されないことや,開示請求があった後にカルテを改竄したり隠匿したりしてしてから開示することもありえます。そうなれば,医療機関に対する責任追及のための重要な証拠を失ってしまうことになります。また,医療機関によっては法外なコピー費用や開示手数料を請求するところもあります。任意開示請求には費用や手間はそれほどかかりませんし,比較的迅速に開示を受けることができますが,上記のような問題点があることは認識しておくべきです。
②証拠保全によるカルテ開示
これに対して証拠保全は,裁判所に申立てを行い,裁判所を通してカルテを入手する手続きです。裁判所による証拠保全の決定は医療機関側には当日まで知らされず,医療機関には実際に証拠保全が始まる30分~1時間程度前に初めて証拠保全の決定が送達されますので,カルテの改竄や隠匿を行う余裕がありません。また証拠保全では,裁判官がカルテの確認・照合を行いますので,カルテの一部しか開示されないというリスクも低くなります。ただし,証拠保全は,裁判所での手続きですので,患者さん(死亡事故の場合は,その相続人)本人で行うには難しい面がありますし,弁護士に依頼する場合には証拠保全に関する弁護士費用や実費費用を支払う必要があります。
このように,任意開示請求によるカルテ開示と証拠保全によるカルテ開示では,それぞれメリット・デメリットがあります。最近では,弁護士に相談に来られる際に,既に相談者側においてカルテを取得しておられる方も多いですが,相談時にカルテを取得していない場合には,弁護士とよく相談してどのような方法でカルテを取得するのが良いのか決めることをお勧めします。
会員弁護士T.H