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弁護士リレーブログ

説明義務の内容と損害について

2022.11.27

 

1 はじめに

医師(医療機関)には患者を治療する際に「説明義務」があり,これに違反すると,患者に対して損害賠償しなければならないとされます。では,「説明義務」とは何を指し,違反した場合の損害賠償はどのような内容になるのでしょうか。

 

2 説明義務について

医師(医療機関)の患者に対する説明義務は,大きく分けると

①患者の身体に(良くも悪くも)影響を与える医療行為を行う前に,患者の有効な承諾を得るために行うべき,自己決定のための説明義務(インフォームド・コンセント)と,

②診療中や診療後に発生する可能性がある危険や悪い結果を避けるために行うべき,患者への療法指示・指導としての説明義務

の2つとなります。

 

 インフォームド・コンセントについて

(1)このうち,①のインフォームド・コンセントの内容について,裁判所は,医療機関と患者の間の診療契約に基づき「疾患の進行程度,性質,実施予定の医療行為の内容,他に選択可能な治療方法とその利害得失,予後について」まで十分な説明を行うべきとしています(最高裁第3小法廷平成13年11月27日判決より)。具体的には病名・病状,実施予定の医療行為の名称や期待される結果・危険性,選択可能な治療法が複数ある場合にはその内容とメリット・デメリット,予後の説明まで求められているのです。

説明すべき「選択可能な治療法」の範囲は,原則として,医療水準として確立したものに限られます。ただし例外的に,医療水準には至らないものの相当数の実績があり,(適応のある)当該患者が強い関心や希望を持っていることが明らかな治療法については,医師が知る限りの情報提供をすべきだとされます(上記判決参照:乳房温存療法について)。

また、診療科目や治療行為の性質によっては,説明義務がより厳格に要求されることがあります。例えば、そもそも治療の必要性・緊急性が乏しく,患者の主観的願望を満足させるために行われる美容医療の領域においては患者の自己決定権が特に重要視されますから、他の診療科目に比べて,期待される結果・危険性・合併症などについてより詳しく説明すべきというのが近時の考え方です。

(2)上記の通り,インフォームド・コンセントは患者の自己決定権を確保するために要請される義務です。

したがって,医師に説明義務違反がある場合,患者の自己決定権が侵害されたことになります。この場合の損害賠償の内容は,原則として,患者が自己決定権侵害により受けた精神的損害に対する慰謝料のみとなります。

しかし,さらに進んで,「医師が説明義務を尽くしていれば患者が当該医療行為を選ばなかった」ということまで立証された場合には,説明義務違反によって患者が当該医療行為を選び,その結果,生命・身体が侵害されたという関係が成り立つことになります(因果関係)。この場合には,治療行為上の過失と同じように,患者が死亡や後遺症を残したことに対する逸失利益(患者が将来得られたであろう収入)や慰謝料までも損害として認められます。慰謝料の額も,自己決定権侵害に比してかなり高額となります。

 

4 療法指示・指導としての説明義務

これに対し,②の療法指示・指導としての説明義務は、医師の診察・治療の一環として行われるべきものですから,その違反は,治療上の過失そのものと評価されます。従って,説明義務違反は患者の生命・身体を侵害するものとして,患者が死亡や後遺症を残したことに対する逸失利益(患者が将来得られたであろう収入)や慰謝料まで損害として認められることになります。

 

会員弁護士 T.T

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